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ひとおもい

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東方鬼形獣

2020年ゲームレビュー 1 

EXTRAノーミスとLunaticクリアまで1,142分=19時間。実績コンプまで4,347分=72.5時間。
2019年に発表された東方Projectの整数作品。苦労をねぎらい働きに報いてくれる最高のゲームだった。以下全部ネタバレ。





1.ストーリー

動物霊が幻想郷に攻め込んできたので、霊夢・魔理沙・妖夢が裏切り者の動物霊を自身に憑依させ地獄に乗り込んで黒幕を倒す物語。しかし4面で、動物霊が攻め込んできたのは実は狂言で、主人公たちを連れてきた本当の目的は人間の力を借りて「霊長園」の偶像を倒し「畜生界」を元の弱肉強食の世界に戻す事だとわかる。

6ボスの「埴安神袿姫」は畜生界で動物霊に虐げられていた人間霊たちが招いた造形神。そして5ボスの「杖刀偶磨弓」は袿姫に創られた戦闘用の埴輪である。えぇっ、埴輪が意思を持って動いてるの?! という気もするが、東方では傘もお面も琵琶も琴も太鼓も地蔵も意思を持って動いているのだから今更だろう。

人間霊たちは磨弓をはじめとした埴輪を偶像として信仰していた。しかし神の偉大さではなく偶像の美しさをより崇めるようになった人間霊はやがて偶像に支配されるようになり、勢いに乗る偶像は畜生界を支配してしまった。動物霊の集団「鬼傑組」の組長である「吉弔八千慧」がこの状況を打開するために考えた策が、偶像に肉体を持つ生身の人間をぶつけることである。

4面からストーリーの方向がガラッと変わるのはいつもの東方という感じがする。話が分かりづらいのもまた東方。今作から実績のページでエンディングとエキストラの会話の回想ができる様になったのはありがたい。

磨弓は人に仇なすAIやロボットを皮肉ったようなキャラ造形だが、これは「人間に敵対する人工物」という概念が幻想入りしたことを表しているのだろう。産業用ロボットのトレンドの一つは人との協働であり、人間が近くに居ても安全であることが評価軸となっている。コンピュータが人間の敵になる時代はもう過ぎ去り、共に働く新しい時代が始まった。



2.システム

今作のシステムはロアリング。画面を浮遊する動物霊アイテムを5つ集めるとロアリングモードに入ることができる。ロアリングモード中は被弾を1回防ぐことができ、ボムボタンを押せばロアリングモードの終了と引き換えに霊撃を撃って弾を消すことができる。

集める動物霊の3つ以上をオオカミ・カワウソ・オオワシのどれかで揃えると暴走ロアリングモードに入る。暴走と言ってもデメリットは無い。暴走中はボーナスとしてオオカミ・オオワシならショットのハイパー化、カワウソなら弾消しバリアを得られる。

暴走ロアリングの恩恵は非常に大きい。低速ショットをハイパー化すればその超攻撃力で敵のスペルが10秒以内に終わり、高速ショットのハイパー化は道中のきつい場面に強く、弾消しバリアは生存率の向上に直結する。ハイパー化を前提に敵が硬いなどということもなく純粋にボーナスという位置づけ。ハイパー化は神霊廟でもトランスとして採用されていたが、鬼形獣ではそのバリエーションが増え、場面に応じて最適なロアリングを選択するという戦略が生まれた。

画面を漂う動物霊を集めるのは星蓮船の(悪名高き)ベントラーシステムに似ているが、ロアリングはそれに比べて遊びやすく改善されている。動物霊アイテムはベントラーアイテムよりも動きが遅く、画面に残る時間も長いので集めやすい。またベントラーは道中にしか出てこずボス戦中の存在感が無いのが欠点だったところ、鬼形獣ではボスも動物霊を落とすのでボス戦でもシステムを活用できるようになった。

初見プレイでは動物霊を追いかけるのに必死で敵が何をしているのか見る余裕がなかったり、動物霊を取りに行くために弾幕の中に突っ込んで事故るということもあるが、高火力で敵をぶっ飛ばす爽快感は心地よい。



3.演出

6ボス袿姫との戦いの終盤で動物霊が大勢助けに来てくれる場面が最高。とにかく最高。

袿姫の最後から3つ目のスペル「鬼形造形術」の直後に会話が入り、「人間よ、よく耐えた! まもなく応援が来るぞ!」「もうこっちが強者だ! 孤独な邪神にトドメを刺せ!」という動物霊との会話が入ると、大量の援軍(動物霊アイテム)が現れる。そこから符名なしのスペルカード2枚と自機の暴走ロアリングとの撃ち合いで最高に盛り上がって終わるのが東方鬼形獣というゲームだ。

弾幕ゲー、いやシューティングで孤立無援なのは基本的に自機の方である。一緒に飛び立った僚機は次々に墜ちてゆき、敵の懐に飛び込めるのは自分だけ。それがどうだ、鬼形獣では動物霊からまず「人間よ、よく耐えた!」とねぎらいを受ける。さらに「まもなく応援が来るぞ!」と言われて、実際に助けがやってくるとは! 自分のしてきたことが誰かの役に立っているような気がして、というより自分のプレイそのものを認めてもらえたような気がして、ゲームをプレイしてここまで「報われた」気持ちになったことは今までにない。毎回プレイ中に泣きそうになるし、本当に変な話なんだけど今これを書きながらボロボロ泣いてる。

動物霊の言葉通り、この最終局面は周りに自分の創った埴輪しかいない孤独な袿姫と動物霊を味方につけた自機との対比になっている。さらにハイパーが撃ち放題になるのはラストでオプションを奪われる天空璋との対比でもある。

その他にも袿姫に策が通じず霊長園から逃げ出す緒戦、前方後円墳と摩天楼によるレトロ&フューチャーな背景など、6面は見ごたえがある。まだ見たことのない人には是非プレイしてこの感動を確かめてほしい。





4.他作品との関係

鬼形獣は2009年に頒布された東方星蓮船から10周年ということもあり、色々と星蓮船を彷彿とさせる要素も多い。星蓮船のベントラーアイテムに類似した動物霊アイテム、都市を進んでいく5面、飛沫の弾幕などなど。EXボス「驪駒早鬼」のテーマ曲「聖徳太子のペガサス ~Dark Pegasus」に、星蓮船EXボス「封獣ぬえ」のテーマ曲「平安のエイリアン」と同じフレーズが使われているのもポイント。

10年前の星蓮船が旧作懐古趣味なら、鬼形獣は東方フォロワーの総決算でもある。

先述の最終決戦で応援が来てくれる場面は、実は「Undertale」のフラウィ戦にそっくり。ストーリーそのものや画面上のアイテムを取って回復するところなどがよく似ている。Undertaleは東方の影響を強く受けたことが公言されており、作者同士の交流もあることから鬼形獣がUndertaleを意識している可能性は高い。





また最終目的地が古墳(=霊長園)なのは東方二次創作「東方桃源宮」でも使われていたアイディアだし、EX道中曲の「輝かしき弱肉強食の掟」の雰囲気はその作品群で使われている曲に似ているように思える。(旧作っぽいだけ? うーん、そうかも。)

その他にも東方二次創作で見たことがあるような弾幕がちらほらと。八千慧の亀甲地獄では「東方御粗末」の青松落色を連想した。



5.キャラクター

磨弓と袿姫の関係がこれまでに有りそうで無かった主従になっている。アリスと人形の関係、娘娘と芳香の関係とは同じようで微妙に違う。

磨弓の「忠誠心がそのまま強さになる程度の能力」というのが異様で、ポイントは被造物である以上その能力を磨弓に与えたのは袿姫という点。なるほど、仮に磨弓が造物主に刃向かったとしても忠誠心が下がった状態では脅威とならず、この能力は便利な安全装置として働くように思える。さらに、忠誠心を保ったまま良かれと思って予期せぬ行動を起こしてしまうケースは容易に想定できるので、その対策はされているに違いない。少なくとも強制終了機能やデッドマンスイッチ(押し続けている間だけ機械が動くボタン)などは存在しているだろう。

しかし磨弓に安全装置を付けるということ自体が袿姫が磨弓を恐れていることの裏返しである。AIを創って支配されてしまっているのは実は袿姫だ。被造物は造物主に忠実たりうるか、というテーマは紀元前から現在まで議論され続けているところ、今作もAI談義の盛んな2019年らしい作品と言える。

弾幕によるキャラ表現では、袿姫がジオメトリッククリーチャーに至るまでにスクエア・サークル・ラインを経由していくのは、単純な図形から複雑な幾何学を論じるユークリッドの原論をモチーフにしているのだろう。イデア論を説いたプラトンもその頃の哲学者だ。自機狙いの多い中で八千慧が回り込むような弾幕を多用するのは搦手を好むという性格がよく出ていた。



6.攻略

憑依させる動物霊はカワウソ>オオカミ>オオワシの順に強い。弾幕ゲーはとにかく被弾しないようにすることがクリアのポイントだが、カワウソは暴走ロアリングでの弾消しバリアがその方向性に合っているだけでなく、ボムの初期数も3つから4つに増えるので生き残りやすい。ボムの威力が強化されるのも「難しいところを飛ばす」という東方の基本攻略に合っている。オオカミは低速ショットの常時強化がボス戦で強く、場合によってはボスの通常とスペカを一回のロアリングで越せるほどの火力を得られる。対してオオワシではカワウソ・オオカミの強みを失ってしまうだけでなく、オオワシ暴走ロアリングを使いたい場面が限られているので茨の道。

霊夢・魔理沙・妖夢で強いのは妖夢。妖夢は攻撃力が高く、道中で雑魚の出現に合わせてチャージショットを撃てば弾を出す前に撃破することができる。チャージショットの範囲も広いうえに、画面下に張り付かざるを得ないときも高速ショットが何とかしてくれる。磨弓と袿姫の埴輪をチャージショットで破壊できるのも大きな強み。その他のスペルも「チャージショット何回で越せる」という計算ができる。ただし、オオワシ妖夢はチャージショットの攻撃力を低く設定されているため全機体中最弱となる。

霊夢と魔理沙ではどちらも同じくらいの使い勝手に見えつつ、霊夢は磨弓と袿姫が召喚する埴輪にボムの夢想封印を吸われてしまうので魔理沙のほうがクリアしやすいだろう。

各機体の具体的な違いは以下の動画に詳しい。



Lunaticノーミスクリアは道中が楽になり埴輪も瞬殺できる妖夢が候補となる。動物霊はカワウソ一択だろう。ボムが強化されロアリングも使い勝手がよく、ラストのジオメトリッククリーチャーとイドラディアボルスをほぼ避けることなく取得できる。

今作は自機狙いの弾が多い。中でも3面道中は自機依存弾と固定弾しかなく、前に出るよりも画面下に張り付くほうがより簡単に越すことができる。練習を始めた頃は速攻することしか頭になくて苦労したが、この事に気づいて安定パターンを組めたときの快感はひとしおだった。

by konnkounohoukou | 2020-02-20 22:21 | ゲーム | Comments(0)